一 兵法の道
兵士は、棟梁の下で働く大工に例えられる。
大工の世界では、自分が使う大工道具は自分で研ぎ、自分で揃え、それらを「大工箱」に入れて自分で持ち運ぶ決まりになっている。
そして現場では、棟梁の命令・指示に従って、端々に至るまで手際よく仕上げること。
それが大工としての道である。
大工は、自らの手を汚すことで仕事を覚え、寸法にこだわり続けているうちに、やがては棟梁と呼ばれる立場の地位に就けるのである。
大工の心得として重要なのは、よく切れる道具を持ち、仕事の合間にそれらを研ぐことである。
その道具を使って、厨子(仏具)・書棚から机・行燈(照明)・まな板・鍋の蓋の類に至るまで、巧みにこしらえるのが大工の腕というものだ。
兵士には、このような大工の心掛けが欠かせないのだ。
このことをよく吟味してもらいたい。
この道を学ぶことを志すのであれば、私が本書に記すことをただ漠然と心に留めるだけでなく、その内容を念入りに検討し、理解する必要がある。