五輪書 地之巻5


一 この兵法の書を五巻に分けた理由

我が二天一流の兵法の道を五つに分け、一巻ごとにその精髄を教授すべく、「地」「水」「火」「風」「空」の五巻にして以下に書き記すのである。

最初の「地の巻」では、兵法の道の概略、および、我が二天一流の見方や考え方を説き明かしている。
通り一遍の剣術を学んだだけでは、真の剣術の道は極めがたい。
道作りに例えるなら、まず地面を平らにならし、その上に石を敷き詰めてしっかり基礎固めをする。
そういった意味合いで、私は第一巻を「地の巻」と名付けたのだ。

第二巻は「水の巻」である。
生命の源である水を兵法の手本とし、心を水にするのである。
「水は法円の器に従う」と言われるように、水は四角い器にも丸い器にも合うように自在に形を変える。
そんな水の、青く美しい色や清らかに澄んださまを心に強く宿しながら、我が二天一流の兵法をこの「水の巻」に書き記すのである。

第三巻は「火の巻」である。
この巻では戦いについて書く。
火には大小強弱があり、火勢のすさまじさや変化の激しさがあり、それが戦いに通じるからだ。
戦いには、一対一の勝負もあれば、万対万という規模の大集団戦もあるが、心がけることは同じだ。
どちらの戦いも、ある局面では大胆に、ある局面では繊細に考えなければならない。
この意味をよく吟味すべきである。

この「火の巻」で扱う戦いは、火のように変化が激しく、一瞬を争うので、日々の鍛錬を怠らず、十分習熟した上で、平常心で敵と対峙することが、兵法の極意となる。
そうした観点での戦いや勝負のありようを、「火の巻」に書き示す。

第四巻は、「風の巻」である。
この巻を風とした理由は、我が二天一流とは関係のない他流派の兵法について書くからだ。
風ということでは、昔風、今風、様々な家風等があるので、世間に存在する兵法とそれらの流儀の技を明確に書き記すのである。
これが「風の巻」だ。
他の流派を知らずして、己の技を上達させることは難しい。
我が二天一流の兵法は、道理と技の点でも他の諸流派とは明らかに一線を画している。
ついては、世間一般の兵法がどんなものであるかを知らしめるために、「風の巻」として他流派の事を書き記すのである。

第五巻は「空の巻」である。
この巻を「空」とした理由だが、空という以上、奥もなければ入口もないという意味だ。
空が何であるかを知るには、勝つ道理が理解できたら、一度その道理から離れるとよい。
我が二天一流の兵法の道を学ぶと、やがて自在に動けるようになり、人並外れた技能もおのずと習得でき、機が熟せば「拍子」についての理解も深まる。
そしていつしか、我が手に剣を握っていること、あるいは、剣が我が手にあるということすら頭から消え、一種の無我の境地となって敵と勝負しているようになる。
これが空の道である。
意識することなく自然に真の兵法の道へ入っていく方法を、この「空の巻」に書き記す。

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