
ありがたいことに、時々テレビ局から取材の依頼が来る。
だが、小心者で目立ちたくない私は、これまで全て丁寧にお断りしていた。
その日も1通の取材メールが届いていた。
いつものように断ろうと思っていたのだが、
講師A「あ、そのメール、私が対応しときますね〜!」
私のことを分かっているので断ってくれるものと思っていたら、数日後、講師AからLINEが届いた。
講師A「今度の殺陣教室に、テレビ局の人が下見に来るそうなのでよろしくでーす!」
私「えっ!?」
大慌てで「私は一切映らないし、1ミリも関わらない!」と念押しする。
講師Aは「それで構いません! 私と当日入る講師Iさんで対応しますから」と言う。
そこまで言うならということで、私は取材をOKした。
OKはしたが、Iさんには何も伝えていない。
AさんとIさんが講師に入るとなると、必然的にIさんがメインで教えることになる。
「メインでテレビ対応してください」なんて言ったら、絶対に「嫌だ」と拒否される。
だが、すでに撮影スケジュールもタレントのスケジュールも押さえられ、後に引けない状況になっている。
でも当の本人は何も知らない。
私はある作戦を思いついた。
「そうだ、当日まで黙っていよう」
Iさんには当日ドタバタの流れでそのままメイン講師に入ってもらう。
背に腹は変えられない。
すまない、Iさん。
そうしてドキドキしたまま前日を迎えると、更なるトラブルが発生した。
「ロケ地、変更になりました!」
これだから嫌なんだよ!
大パニックで参加者の生徒さんたちに連絡を入れるが、なんせ前日である。
メールに気づかない人もいるかもしれない。
電話をかけ、人に伝言を頼み、なんとか全員に伝えられたはず……と思う。
全員から返信が来るまで、万が一のトラブル(前の会場に行ってしまうなど)の対応もある。
現場に行って全員が着ているのを確認するまで生きた心地がしなかった。
一方、講師Iさんに対しては、それが良かった。
「私は時間的に直前にしか行けないので、Aさんと一緒に早めに行って、取材対応と稽古の流れの説明をお願いします。」とだけ伝えた。
よし、これで当日、Iさんは流れるようにカメラの前に引っ張り出され、そのままメイン講師として撮影されるはずだ。
Iさん、だましてすまない。
私は直前に現場入りして講師にも入らない。高みの見物をさせてもらう。
私はほっと胸をなでおろした。
当日、私は予定通り撮影開始の10分前に現場へ到着した。
一応、大人のマナーとしてディレクターさんに挨拶をする。
そこへ今回のゲストであるタレントさんもやってきたので、「よろしくお願いします」なんて一言二言、和やかに言葉を交わしていた。
ん?
音声さんが私の右腰に、手際よくピンマイクをセットしている!
いやいやいや!ちょっと待って!私は今日は見学!講師はあっちのAさんとIさん!!
そう叫びたかったが、もう開始時間になる。
え? ちょっと待ってくれ。聞いてない。聞いてない。ギャグじゃなくて本当に聞いてない。
Iさんをハメたつもりが、私がハメられてるじゃないか~~!!
そんなパニック状態のまま撮影が始まった。
私の心理状態がおかしいせいか、急な場所変更のせいか、テレビカメラのプレッシャーか、なんか空気が妙に重い。
それがタレントさんにも伝わって、なんか固くなっている。
ディレクターさんも下見の時とガラリと変わった教室の雰囲気に戸惑っている。
これ、大丈夫か……?
冷や汗がでてきたのでいつもの稽古メニューを早めに切り上げ、とりあえずいったん休憩を挟むことにした。
休憩を挟むといつもの稽古の空気に戻り、タレントさんにも笑顔が戻った。ホッと一安心した。
しかし、カメラは容赦なく回り続けている。
そこで私は「絶対に映らない作戦」を決めた。
基本の斬り方の練習になり、皆が刀を振る。
しかしタレントさんは刀の振り方が分からず、困った顔でキョロキョロしている。
いつもならすぐに教えに行くが、あそこにはカメラがいる。私は絶対に近づかない。
Iさんを探すと、Iさんは稽古場の端っこの方にいるではないか。
私は目で強烈に合図を送った。
『Iさん!タレントさんが困ってますよ!教えてあげて!』
すると、Iさんから倍以上の目力が返ってきた。
『あんたが代表なんだから、あんたが教えなさいよ!!』
しょうがないので、私がタレントさんに付きっきりで刀の振り方、抜刀・納刀を教える羽目になった。
そしてやっと次の休憩に入り、ここからはタレントさんに、Iさんと生徒Nさんが立ち回りを教えることになっている。
やっと解放された。 カメラの1台がこちらの通常稽古を撮っているが、それくらいならもう全然気にならない。
稽古の最後、Iさんとタレントさんによる、立ち回りを全員で見学することに。
さすがはプロ。この短時間で見事な立ち回りを披露し、会場は大拍手に包まれた。
よし、これで終わりだ。長かったと思った瞬間、ディレクターさんが言った。
「今の立ち回りを見て、先生どうでしたか!?」
カメラがガバッと私を向く。
うわっ!!
いや、だから私は映らない約束で来たんだって!
インタビューは全部Aさんが受けるって話だったろ!
一言も喋るまいと固まっていると、「何か言え〜!」「面白いこと言え〜!」と、野次が飛んでくる。
結局プレッシャーに負けて、全然面白くもないコメントをしてしまった。
く、悔やまれる…。
本当は……、本当は……、私はもっと面白いのだ!
もっと面白いことが言えるのだ~!
もう1回、もう1回チャンスをくれ〜!
殺陣が下手と思われても構わない、弓が下手と思われても構わない、面白くないとだけは思われたくないのだ〜!!
そんなこんなでやっと終わった……と魂が抜けかけていると、さらにディレクターさんが近寄ってきた。
自宅でできる体をほぐせる運動って何かありますか?
これなんかいいと思いますよと、刀を回して真向斬りをすると、
いいですね!じゃあそれ、インサートVTR用に、もう一回カメラの前でお願いします。
嫌です。と言って生徒さんに良かったらどうぞと譲ったが、どうぞどうぞと返され、結局そのまま撮って、ようやく全ての撮影が終了した。
散々な目にあったけど、まあいろいろあったけれど、みんなの記念にもなったし、無事に終わったから良しとするか……。
「でももう取材はこりごりだな!」
そう思いながら、翌日パソコンを開くと、1通のメールが届いていた。
【TBSラジオ 取材ご依頼のお願い】
……。
これはまたハメられる。
