カテゴリ:五輪書

五輪書 火之巻22

ー 底を抜くということ

「底を抜く」というのは、敵と一戦交えたとき、こちらの兵法の技が効いて、形の上では勝ったように見えても、敵はまだ闘争心を失わずにいて、うわべの負けたような表情とは裏腹に、胸の奥ではギブアップしていないことがよくある。
そうしたケースでは、こちらの気持ちをただちに切り替え、敵の胸の内に残っている戦意を根絶やしにし、敵が心底から敗北したという気持ちになるのを見届けないといけない。

これが「底を抜く」ということだが、敵の底は太刀で抜くこともあり、体を使って抜くこともあり、心理的に抜くこともあるので、やり方は一通りしかないと思い込んではいけない。
敵が底から崩れたときは気にかける必要はないが、底から崩れていなければ、まだ闘争心は残っているので、警戒してかからないといけない。
敵が底から崩れて完全に戦意を喪失しない限り、敵を完璧に打ち崩したとはいえないのである。

大勢の合戦・少人数の戦いを問わず、「底を抜く」という徹底した戦い方については、日頃からよく研究しておく必要があろう。

五輪書 火之巻21

ー  山海の替わりということ

「山海の心」という表現がある。
これは、「敵との戦いで何度も同じ失敗を繰り返すのは許されない」ということを意味している。
同じ過ちは、二度までならやむをえないが、三度目は絶対に許されないのである。

敵に技をしかける場合、一度でうまくいかなければ、もう一度攻め立て、それでも成功しなかったら、発想を転換し、それまでとは趣がまったく異なる別の技をしかけて、敵の度肝を抜く戦法が有効だ。
それでもうまくいかなかったら、さらに別の奇策を講じなければならない。

つまり、敵が「山」を考えていると読んだら、こちらは「海」をしかけ、敵が「海」を考えていると察したら、「山」をしかけるのである。
この戦術を「山海の替わり」といい、わが二天一流の兵法の道理の一つである。

五輪書 火之巻20

ー ひしぐということ

「ひしぐ」とは、たとえば、敵の実力をわざと過小評価し、こちらの方が強いと自分に信じ込ませることで、相手を完全に呑んでかかり、押しつぶす心理戦術をいう。

大勢の合戦では、敵の軍勢が少人数だと見抜いたときはむろんのこと、たとえ敵が多人数であっても、敵がうろたえて弱みを見せる戦局になったら、「ひしぐ」のがべスト。はじめから嵩にかかった猛攻撃をかけて、完膚なきまでに敵を叩きのめすこだ。
そのときひしぐ度合いが弱いと、相手が盛り返すおそれがあるので要注意だ。 敵を手のなかに撮って押しつぶす「ひしぐ」という心意気を、よく理解せよ。

また、一対一の勝負では、自分よりも力が劣る者を敵にするとき、あるいは敵が拍子を狂わせて「退り目(後退する展開)」になったときは、先方に息つく間も与えず、 目を合わせないようにして一気にひしぎ去る気迫が第一である。

五輪書 火之巻19

ー まぎれるということ

「まぎれる」というのは、兵力が互角の合戦で、敵が優位な展開になった場面で用いると効果的な戦法のことである。

やり方は、敵の一角へ集中攻撃をかけ、敵勢が崩れたと見るや、一転してそこを放棄し、別の強い隊へかかっていくのである。
この戦法は、右に左にとジグザグの攻撃線を描く「九十九折り」のような攻め方といえる。

一人で大勢を敵に回して戦うときにも、この戦法は効果がある。
一方だけを勝ち抜くのではなく、敵が逃げたら別の強い方へと向かっていき、敵の相子にうまく乗っかって、九十九折りの道をゆく心境で右へ左へとめまぐるしく動いて敵を翻弄し、様子を見計らって打ちかかるのだ。
敵の力量のほどを見極めて打ちかかっていく場合は、少しも臆することなく、激しく攻めて打ち勝つのである。

一対一の戦いで、強い敵と対するには秘策がある。「まぎれる」がそれである。

一歩も退くことなく、敵陣にまぎれ込むという戦術、得心がいくまでよく考えてみることだ。

五輪書 火之巻18

ー 三つの声ということ

「三つの声」は、「初・中・後の声」といって、三種類に分かれている。場面に応じた「掛け声」のことである。

掛け声は、威勢のよさを示すためであるから、火事などでもかけるし、風や波に向かってもかけるのである。声はこちらの勢力の誇示である。

大勢の合戦では、戦いの最初の掛け声は、嵩にかかって相手を威圧するように「エイッ!」と声を上げ、戦いの最中には腹の底から「ヤッ!」と低いトーンの声を出し、 勝った直後には「トウ!」と強く大きな声を発する。
これが三つの声である。

また、一対一の勝負の場合は、敵の動きを誘うためには、打つと見せかけて、初めに「エイッ!」と掛け声を発し、その声を追うように太刀を打ち出すのである。そのほか、敵を打ち倒した後の掛け声、勝利を告げる掛け声もある。
この二つを「先後の声」という。それらは、太刀を打つ先か後かの違いがあるだけで、太刀を打つのと同時に掛け声を出すことはないのである。
もし、戦いの中でかけるのなら、その目的は拍子に乗るためであるから、低くかける。

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