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五輪書 水の巻36

ー 直通の位ということ

直通の精神は、わが二天一流の真の兵法の道を通して伝えるものである。
良く鍛錬して、この兵法を身に付けることが肝要である。

わが二天一流の剣術の流儀についての大略を「水の巻」として、この巻に書きつけた。

兵法において、相手に勝つコツをつかむには、まず五つの基本型からなる、「五方の構え」を知り、その太刀筋をマスターすることだ。
そうすると、体が自由に動くようになり、心の働きも活発になり、拍子も分かるようになって、技が自然と冴えてくるし、体の動きも足の運びも柔軟になって、自在に動くるようになる。
その結果、一人に勝ち、二人に勝つようになり、やがては兵法のよしあしに通じるまでに成長するのだ。だが、それで安心してはいけない。

この書に記されたことを一か条、また一か条と稽古して身に付け、敵とも戦うことで、兵法の道理を次第に会得していくのである。
このことをいつも心がけ、焦る気持ちを決して起こさず、折に触れてこの書を読み返し、様々な相手と打ち合いをし、二天一流の兵法の精神をよく理解して、千里の道を一歩、また一歩と進んでいくのである。

今日は昨日の自分に勝ち、明日は自分より下手な相手に勝ち、明後日は自分より上手な相手に勝とうと思って、この本にあるように修練して、気持ちが脇道にそれないように心がけてもらいたい。
たとえどんな強敵に打ち勝とうと、師の教えや流儀の教義に反するような勝ち方であっては、真の兵法の道であるとは言えない。

こうした兵法の道理がいつも自然に心に浮かぶようになれば、一人で数十人の相手に勝てるコツをわきまえたと言えるだろう。
そうなったらしめたものだ。剣術の智力によって「多分一分(大勢の合戦・一対一の勝負)の兵法」の精髄も会得できるはずである。
千日の稽古を「鍛」とし、万日の稽古を「錬」とする。そうわきまえて、ますます稽古に励んでもらいたい。

1645年5月12日 新免武蔵

五輪書 水の巻35

ー 一つの打ちということ

この「一つの打ち」という戦法を身に付ければ、確実に勝つことができる。
ただし、二天一流の兵法をよく学ばないと、それを会得することは難しい。
だが、このことをよく理解して鍛錬を積めば、次第に各自が心に思い描いた通りの兵法を行えるようになり、やがて意のままに勝てるようになる。

五輪書 水の巻34

ー 打ち合いの利のこと

「打ち合いの利」というのは、いわば兵法の「刀で勝つ道理」であるが、そうしたことは、こまごまと具体例を書き記す性質のものではない。
稽古に次ぐ稽古を繰り返して精進すれば、勝つ極意は自ずと体得できるはずだ。
「打ち合いの利」は、わが二天一流の兵法の真の道を教える刀の使い方であり、口伝である。

五輪書 水の巻33

ー 多敵の位のこと

「多敵の位」というのは、一人で多数の敵を相手に戦うときの心得である。
敵の両刀をすらりと抜き取ったら、両腕を左右に広げ、両脇に提げて構えるのである。
こうすれば、何人もの敵が四方から打ちかかってきても、どちらか一方へ追い込むことができるはずである。

かかってくる敵の、誰が先で誰が後になりそうかを即時し、先にかかってきそうな相手に素早く襲い掛かって、まずこれを片付ける。
次いで、全体の動きをざっと眺めて、敵がどう打ちかかってくるかを把握したら、右手に持った大刀と左手に持った脇差を交差させるようにして次なる敵を一気に切り倒すのだ。
斬った後、敵の襲撃を待つのはよくない。
直ちに二刀を両脇に構え、敵がでてくるところへこちらから激しく斬りこんでいって、押し崩し、休むことなく、更に出てくる別の敵に強く斬りかかり、これを押し崩すのである。
一方から魚群を追い込むような要領で、どうにかして敵を追い立て、敵の隊列が乱れて重なり合うような状態になったら、チャンス到来。間髪入れず激しく打ちかかることだ。

しかし、何人もの敵が群がってるところへ真正面からまともに突っ込んでいくような愚かなやり方では、成功は望めない。
だからといって、敵がでてくるところを狙い打とうなどと考えると、待つ気持ちが生まれて敵に後れを取るので、これまた、うまくいかないだろう。
敵が攻撃してくる拍子を的確に見極め、どうすれば隊列が崩れるかを察知することが勝利を呼ぶ秘訣である。
機会を狙って、敵を何人もおびき寄せるようにして追い込む方法に習熟し、そのコツを体得すれば、一人の敵であろうが、十人、二十人という大勢の敵であろうが、安心して戦えるようになる。

五輪書 水の巻32

ー 張り受けということ

「張り受け」とは、敵と打ち合っていて、ドタドタした乱れた拍子になって嚙み合わなくなったと感じたら、敵が打ってくる刀をはたいて打ち返すことだ。
「はたく」のだから、そう強く叩くのではなく、かといって、ただ受けるというのでもない。
襲ってくる敵に素早く応じる体制をとり、打ちかかってくる刀をはたくや否や、打って出るのである。
はたくことで機先を制し、さらに先手をとって打ちかかるという点が重要なのだ。
はたく拍子がドンピシャだと、敵がどんなに強く打ち込んできても、こちらにはたく気持ちさえあれば、切っ先を下げられるようなことにはならない。

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