武士道 第16章


第16章 『武士道はまだ生きていけるのか?』

・武士道は日本人の「活力の源」である
我が国に怒涛のように押し寄せてきた西洋文明は、私たちの中に引き継がれてきた日本古来の教訓を、すでに跡形もなく拭い去ってしまったのでしょうか?
そんなに簡単に外国からの影響に屈してしまうとすれば、その魂はあまりにも貧弱なものだった、と言えるかもしれません。

武士道が我が国に、とくに武士たちに対して刻印した性格は、疑いなく活力を与える要素になっています。
武士道がこの七百年にわたって蓄積してきたエネルギーは、そう簡単に止まってしまうものではありません。
無意識に及ぼす抵抗できない力として、武士道は国家と個人を動かしてきました。
現代日本の最も優れた先駆者の一人である吉田松陰が、処刑される前に詠んだ歌は、日本民族の正直な告白でした。
「かくすれば かくなるものと しりながら やむにやまれぬ 大和魂」

・近代日本は間違いなく、サムライたちによって作られた
形式こそ備えていませんが、武士道は我が国の活動精神であり、推進力でもありました。
そして現在でもそうなっているのです。
武士道は古い日本の建設者であり、またそこから生まれた製造物でもあったのですが、今なお過渡的日本を導いていく原理であり、また新しい時代を創造する力にもなっていくからです。
そのことについては、何より佐久間象山、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允といった、現代日本の建設者たちの伝記を聞いてみてください。
勿論、今も存命の伊藤博文、大隈重信、板垣退助といった人々の回顧録は言うまでもありません。

王政復古の嵐と国家再統合の渦の中、私たちの国の舵をとってきた偉大な指導者たちは、武士道の教え以外に道徳的な教えを知らない人たちでした。
新しい日本の特徴を作り上げる上で、私たちを刺激し、動かしてきたものは、純粋で単純な、武士道以外になかったのです。

・武士道の存続がこの国の未来を決める
極東の研究と観察を続けているヘンリーノーマン氏は、日本が他の東洋専制国家と違っている唯一の点は、「厳格で、高尚で、これまで人類が作ってきた中でも最も厳密である名誉の掟が、その国民に支配的な影響与えていたこと」だとしています。
この言葉で彼は、「新しい日本がどういうものか」を決定し、かつ「将来の日本がどのようになるか」を決めるものについて触れているのです。
日本の変貌は、全世界に知れ渡る事実となりました。
このような大きな仕事を成すには、当然ながら様々な動機が働いています。
けれども一つ主要な要因をあげるとすれば、私はためらいなく武士道の名を上げるでしょう。

東洋の制度と民族を詳しく観察したタウンゼンド氏は、こういいます。
「イギリスが中国からお茶を買っても影響はされていないように、日本の場合もまったく影響を受けたわけではない」
タウンゼント氏が、日本に変化をもたらした要因を、日本人自身の中に求めたのは、優れた指摘でしょう。
そして、もし彼が更に詳しく日本人の心理を研究したならば、彼の鋭い観察眼は、その要因が武士道以外の何物でもなかったことを見抜いたでしょう。

その一方で公平を期すために、私たちが特徴として持っている、弱点や欠点についても認めなければなりません。
我が国の何人かの若者が、すでに科学の研究では世界的な評判を得ているのに、哲学の分野では、誰一人、何も貢献できていません。
深遠な哲学的思想で日本人が劣っている要因は、武士道の教育制度の中で、形而上の学問がおろそかにされたことが理由になっていると思います。
また武士道が教えてきた名誉に対する意識は、日本人を感じやすく、激しやすい性質に育て上げました。
外国人によく非難される日本人の尊大な自負心は、名誉心の病的な行き過ぎが原因になっているのです。

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